1.はじめに
当センターの事業計画に反映し地域への貢献度を高めるために、定期健康診断(以下健診とする)の事後措置の実態を把握し、事後措置として今後指導すべき点は何かを明らかにすることは、従業員の健康と福祉に貢献するために設置された産業保健推進センターの重要な課題である。したがって、当センターでは平成13年度にこのテーマで、従業員50人以上の全事業場を対象に調査研究を行った(平成13年度産業保健推進センター報告会発表)。
従業員の規模別に分析した結果、300人以上事業場の事後措置の実施状況は300人未満に比べてよい傾向にあった。50人以上事業場全体では、大半が健康管理担当者を有しており、健診を実施していた。
事後措置に関しては、①保健指導実施は63.0%であり、②有所見者に対する産業医からの意見聴取は56.4%、③就業場所の変更措置等は60.2%、という結論を得た。
当県では、従業員50人未満の事業場が98%と、圧倒的多数を占めていることから、産業医、衛生管理者の選任義務のない事業場が健診の事後措置をどのようにしているかを解明することは、13年度の調査結果とあわせると県下全体の実情が把握できることになる。
2.目的
従業員50人未満の事業場における保健指導の実態を明らかにし、地域産業保健センター等支援のための基礎的資料とする。
3.方法
1)対象:徳島県内の従業員50人未満事業場のうち無作為に抽出した1,000事業場を対象とした。
2)調査内容:事業場の規模・業種、健康管理担当者の有無と職種、保健指導の有無とその職種、健診結果の
伝達方法、有所見者に対する医師等からの意見聴取・就業措置への対応、保健指導、地域産業保健センタ
ー利用希望の有無等を調査項目とした。
3)調査時期:平成14年10月1日から31日である。
4)調査方法:当センター所長から事業主宛の調査依頼文を同封し、当センターで作成した調査票を郵送した。
5)倫理的配慮:調査票作成時に、事業場名を特定する調査項目は削除し、研究目的にそってデータ処理を行った。
調査票の返送をもって調査に承諾の意志があるものと判断した。
6)分析方法:調査票の各項目について単純集計をした。回答項目に設けた選択肢の一つである「その他」の
自由記載項目は記入内容をそのまま転記した。さらに事業場の規模による対応および保健指導実施による
相違点を見るために、従業員の規模別(以下規模別)および保健指導の実施状況別にクロス集計した。
事業場の規模は、「1~4人」「5~9人」「10~29人」「30~49人」に分類した。統計学的な有意差を
見るためにカイ自乗検定を行った。
集計には統計ソフトSPSS(Ver.11)を使用した。
4.結果と考察
1.対象の概要
調査票は375事業場から返送され、回収率は37.5%であった。そのうち調査時点では50人以上の従業員を擁する事業場であったものがあったため、50人未満の事業場340箇所を有効回答とした(有効回答率34.0%)。
事業場の規模について回答があったのは340箇所であった。規模別数は、「1~4人」が89箇所(26.1%)、「5~9人」が103箇所(30.0%)、「10~29人」が115箇所(33.3%)で最も多く、「30~49人」は33箇所(9.7%)であった。事業場の規模は図1に示した。最も多い業種は「建設業」で124箇所(37.6%)であった。次いで多かったのは「商業」で43箇所(13.0%)であった。
2.健康管理担当者の有無
事業場の規模による健康管理担当者では、小規模ほど「いない」が多く、有意な差が認められた(p<0.01)。
表1に示す通り、健康管理担当者の有無はほぼ同数であったが、若干「いない」方が上回っていた。規模別には統計学的に有意な差が認められた(p<0.01)。
1~4人 | 5~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
いる | 度数 | 31 | 46 | 66 | 21 | 164 |
% | 36.0 | 45.1 | 57.9 | 70.0 | 49.4 | |
いない | 度数 | 55 | 56 | 48 | 9 | 168 |
% | 64.0 | 54.9 | 42.1 | 30.0 | 50.6 | |
合計 | 度数 | 86 | 102 | 114 | 30 | 332 |
% | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
P<0.01
1~4人 | 5~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
実施している | 度数 | 44 | 62 | 99 | 31 | 236 |
% | 49.4 | 60.2 | 86.1 | 93.9 | 69.4 | |
実施していない | 度数 | 39 | 34 | 11 | 2 | 86 |
% | 43.8 | 33.0 | 9.6 | 6.1 | 25.3 | |
その他 | 度数 | 6 | 7 | 5 | 0 | 18 |
% | 6.7 | 6.8 | 4.3 | 0.0 | 5.3 | |
合計 | 度数 | 89 | 103 | 115 | 33 | 340 |
% | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
P<0.001
3.保健指導の実施状況
1~4人 | 5~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
1.行っている | 度数 | 15 | 22 | 40 | 15 | 92 |
% | 25.4 | 28.2 | 38.5 | 48.4 | 33.8 | |
2.行っていない | 度数 | 41 | 52 | 63 | 16 | 172 |
% | 69.5 | 66.7 | 60.6 | 51.6 | 63.2 | |
3.その他 | 度数 | 3 | 4 | 1 | 0 | 8 |
% | 5.1 | 5.1 | 1.0 | 1.0 | 2.9 | |
合計 | 度数 | 59 | 78 | 104 | 31 | 272 |
% | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
保健指導を行っている事業場は92箇所(33.8%)に過ぎなかった。
小規模事業場ほど、保健指導を行っている割合が低かったが、統計学的な有意差は見られなかった。
4.事後措置について
表4および5に事後措置の結果を事業場の規模別に示した。「産業医に意見を求める」および「就業場所の変更措置」について、いずれも実施しているのは半数以下であり、事業場の規模による差も認められなかった。
1~4人 | 5~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
1.はい | 数 | 19 | 26 | 40 | 12 | 97 |
% | 36.5 | 36.6 | 38.5 | 37.5 | 37.5 | |
2.いいえ | 数 | 23 | 32 | 49 | 17 | 121 |
% | 44.2 | 45.1 | 47.1 | 53.1 | 46.7 | |
3.その他 | 数 | 10 | 13 | 14 | 3 | 40 |
% | 19.2 | 18.3 | 13.5 | 9.4 | 15.4 | |
2+3 | 数 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
% | 0 | 0 | 1.0 | 0 | 0.4 | |
合計 | 数 | 52 | 71 | 104 | 32 | 259 |
% | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
1~4人 | 5~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
1.はい | 数 | 16 | 27 | 48 | 11 | 102 |
% | 31.4 | 39.7 | 48.0 | 35.5 | 40.8 | |
2.いいえ | 数 | 23 | 23 | 29 | 13 | 88 |
% | 45.1 | 33.8 | 29.0 | 41.9 | 35.2 | |
3.その他 | 数 | 12 | 18 | 23 | 7 | 60 |
% | 23.5 | 26.5 | 23.0 | 22.6 | 24.0 | |
合計 | 数 | 51 | 68 | 100 | 31 | 250 |
% | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
今回の調査結果をもとに、今後、行政、地域産業保健センター等関係機関と連携を密にし、従業員50人未満の事業場の健康管理に寄与する方策を検討したい。
主任研究者 | 徳島産業保健総合支援センター 所長 | 中川 利一 |
---|---|---|
共同研究者 | 徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 多田 敏子 |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 広瀬 暉 | |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 島 健 | |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 鈴木 泰夫 | |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 横田 雅之 | |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 斎藤 恵 | |
徳島県医師会産業医部会理事 | 大木 裕子 |