Ⅰ.はじめに
四国の道路整備は、本州に比して著しく遅れており、特に徳島県はその最たるものであったが、最近漸く一部高速道路の延伸や、明石海峡大橋の開通(平成10年4月5日)によって、道路交通の高速化を迎え、交通機関の運行体系にも大きな変革がみられようとしている。尤もこれらに伴う流入・走行車輌の急増と、それに対応すべき地方道路の整備の遅れから、場所によっては慢性的な交通渋滞もみられるのが現状である。
一方、労働時間の週40時間制が施行され、また、労働者の高齢化、更には厳しい不況という社会的背景もあるが、この時に当って、徳島県下のバス、トラック、タクシー等々の業務用運転手について、運転業務、日常生活、健康状態、生活満足度等の実態を把握して、その健康と安全対策の一助にも資すべくアンケート調査を行ったので、その結果を報告したい。
因みに、これまで運転労働者の健康と安全に関する全国的な調査の一環として、徳島県の限られた少数例についての調査結果は発表されているが、現在のそれはかなり異質なものが推測され、また異業種間を比較検討した報告はほとんど見当らない。
Ⅱ.調査方法
1.対象者
徳島県下に事業拠点を置くバス(4)、トラック(ダンプカーを含む。)(11)、タクシー(9)の合計24事業所に所属する運転手1926名に、事業所を通じてアンケート用紙を配布し・自記式(一部面接を含む)で回答を得た1177名(回収率61.1%)について解析した。
2.アンケート内容
アンケートは、①属性、②運転業務、③日常生活④健康状態、⑤生活満足度等々の5つに大別される。
3.解折方法
対象者を業種別に各々の年齢構成を勘案して8群(表)に分け、以後の解折を行った。
N | 年齢 | ||||
---|---|---|---|---|---|
39歳以下 | 40~49歳 | 50歳以上 | |||
業種 | バス | 282 | バス-若 74(26.2) |
バス-中 114(40.4) |
バス-高 94(33.3) |
トラック | 710 | トラック-若 369(52.0) |
トラック-中 185(26.1) |
トラック-高 156(22.0) |
|
タクシー | 162 | - | タクシー-中 41(25.3) |
タクシー-高 121(74.7) |
|
合計 | 1154 | 443(38.4) | 340(29.5) | 371(32.1) |
なお年齢不明者(23名)は除外したが、女性(10名)と、性別不明者(25名)は除外しないで解折に加え、解析は出現頻度5以上の場合についてX2検定を行った。
4.調査期間
平成10年8月から9月の間に実施した。
Ⅲ.結果と考察
1.属性
40才以上がバスで74%、トラックは48%、タクシーでは100%となっており、各業種とも高齢化が著しい。また、40才以上の者で、運転免許歴と運転歴が20年以上になる者は、夫々93%、64%となっているが、入社歴となると、20年以上の者は、バス(62%)以外は、トラック(31%)タクシー(15%)と低く、同一会社への定着率は極めて低い。
2.運転業務
一日の走行距離が200㎞以下のものが、タクシー91%、バス85%、トラック67%となっており、タクシーでは300㎞以上の者はない。徳島から本州へは、従来フェリーの利用者が多かったが、架橋後は橋の利用によって走行距離が増加していると思われる。尤も、全国規模の長距離トラックのそれに比べるとかなり少ない。勤務時間については、法定労働時間週40時間への厳守に努力されているものの、早急な達成が望まれる。肉体的疲労があると答えた者は80%を超えており、業種および年齢間の差は見られない。この原因としては長時間運転と道路状況が多い。また精神的疲労がある者は、バス、タクシーでは80%を超えていたが、トラックでは60%台とやや低い。その精神的疲労原因として運転による緊張と渋滞によるイライラが多いがバスやタクシーの若年層では職場内外の人間関係が比較的多かった。疲労が翌日にも残っている者は20年前の全国調査よりもかなり少なかったが、トラックについては最近の他の調査結果よりも著しく高率であった。なお、徳島県下の高速道路の延伸や本四架橋による疲労発現への影響はほとんどみられなかった。
3.日常生活
毎日の生活が規則正しく「出来ていない」が、全体で約30%あり、殊に日勤の多いバス-中・高で過半数に及んでいたのは意外であるが、その原因は不詳である。朝・昼・夕の3食摂取者は各業種とも高齢者では70%近いが、若年者では約30%に過きず、喫煙率、飲酒者は夫々全体の70%に及んでいる。一方運動を「ほとんどしていない」者が60%近くあり、業者間にほとんど差は見当らない。日常生活上の悩みとして運動不足(56%)、睡眠不足(47%)、不規則な食事(41%)等々が問題点としてみられた。
4.健康状態
現在体調不良な者は47%で、そのうち腰痛(63%)が最も多く、肩凝り(40%)、胃膓(25%)、が続いているが、腰痛、肩凝りは、バス、トラックでは高齢者よりもむしろ若・中年者に多かった。腰痛を訴える者のうち、22%がコルセットを着用しており、その半数近くは医療機関で作成されたものを使用している。なお、バスの若年者に体調不良の原因として心臓、貧血、めまいを挙げた者が、他の群より高率であったことは、安全運転上留意すべきことかと思料される。また、肝臓、高血圧、糖尿病が夫々約10%にみられ、糖尿病を挙げた者のうち83%が治療を受けていないのも懸念されるところである。
又、定期健康診断の受診率は、「毎回受けている」、「時々受けている」を合わせると83%となるが、若年者ほど「受けない」率が高い。受けない主な理由は「面倒だから」(50%)「時間がとれない」(33%)であった。なお、健診の結果、54%が異常を指摘されているが、事後措置としての指示にその80%は対応しているものの、20%は対応していない。
5.生活満足度
現在の生活に「満足している」は全体的に25%で、「満足していない」は39%である。トラック-高を除いては、現在の生活に満足「していない」が、「している」よりも多く、特にタクシーでは経済的に安定して「いない」が72%にも達しており、バス-中にも同じ傾向がみられる。にもかかわらず、仕事は「続げる」という者が・すべての群で「続けない」よりも圧倒的に多いのは、現在の仕事に不満があっても、直ちに転職を考えることには繋がっていないようで、現在の社会的・経済的背景が色濃くかかわっているのではないかと推測される。
主任研究者 | 徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 近藤 平一郎 |
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共同研究者 | 徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 西山 敬太郎 |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 島 健 | |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 松森 茂 | |
徳島産業保健総合支援センター 相談員 | 末善 良郎 | |
徳島県医師会産業医部会部会長 | 中川 利一 | |
四国大学講師 | 赤尾 泰子 |