1.はじめに

徳島県においても働く人達の生活習慣病が年毎に増えている。なかでも作業関連疾患とも関連する高血圧性疾患や高脂血症、糖尿病、虚血性心疾患などが増えている。その原因として、働く人達の高齢化や運動不足、食生活の偏り、ストレス等が考えられる。このような状況から働く人達の健康管理は疾病の予防から生活習慣病対策、更に、健康増進対策へ重点が移され、積極的な心とからだの健康づくり(THP:トータル・ヘルス・プロモーション・プラン)の推進が期待されている。

本調査研究は、全身持久力の指標としての最大酸素摂取量と運動習慣、ならびに生化学的所見や体脂肪などとの関係を調査し、健康増進対策が生活習慣病の発生防止、健康増進に役立つか否かの判定資料を得ることを目的とするものである。

2.調査

対象および方法調査対象は、労働者健康保持増進サービス機関七條整形外科にて健康測定を実施した1,167名の働く人達を対象とした。

運動負荷試験は、エルゴメータおよびマルチ・エクササイズシステムを使用し、多段階漸増負荷を行い、Astrandの推定法を用いて最大酸素摂取量を計算した。さらに、身長、体重、上腕の皮脂厚、肩甲の皮脂厚、体脂肪率および body mass index 、安静時血圧、安静時心拍数、安静時標準誘導心電図、ヘモグロビン、赤血球数、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、血糖、グリコヘモグロビン(HbA1c)、尿酸、尿素窒素、クレアチニン、GOT、GPT、γ-GTP、肺活量、%肺活量、1秒率、左右握力、柔軟性(座位前屈)、敏捷性(全身反応時間)、平衡性(閉眼片足立ち)および上体起こし回数を測定した。

以上の調査項目について、最大酸素摂取量との相関を続計学的に検討した。

3.結果

図1および2に、最大酸素摂取量と健康測定項目のうち有意な相関がみられた項目を示した。

最大酸素摂取量と年齢、体重、皮脂厚、体脂肪率、BMI、血圧、心拍数、総コレステロール、血糖、HbA1C、GOT、GPT、γ-GTPは、有意な負の相関がみられた。一方、最大酸素摂取量と閉眼片足立ち時間、上体起こし回数とは、有意な正の相関がみられた。

図3に、男女それぞれについて運動習慣レべルと最大酸素摂取量との関連性を示した。
運動習慣レベルは、1:ほとんど毎日運動している、2:1週間に3,4回は運動している、3:1週間に1、2回は運動している、4:月に1,2回は運動している、5:まったくしていないで、運動負荷試験施行時にアンケート調査を行った。
男性および女性ともに、運動習慣のある被験者において、有意に最大酸素摂取量が高い傾向を認めた。

4.考察

働く人達の生活習慣病、すなわち高血圧症、高脂血症、糖尿病および虚血性心疾患が増加しており、高齢化社会にむけて、その対策を早期に講じなければ労働人口の滅少が加速度的にすすむ恐れがある。

本調査研究では、運動習慣のある働く人達は最大酸素摂取量が有意に高かった。また、健康測定項目のうちいくつかは、生活習慣病の発症に関わる因子であった。さらに、生活習慣病の抑制も、本研究調査から運動習慣が重要な役割を果たしていると思われた。また、最大酸素摂取量と肝機能(GOT、GPT、γ-GTP)との関連性が認められた。この原因については、今後の調査を待たなけれぱならないが、脂肪肝の関与やアルコール摂取による影響とも考えられた。

5.まとめ

健康づくりを実施している事業場では、年間1人あたりの休業日数が減少したり、医療費の負担が減少したり、仕事に対する満足度が高くなったとかの効果が報告されている。また、健康人が多いことは、企業にとっては事業の活性化、個人にとっては自己実現、社会にとっては活力のある地域社会の形成が基本であり、健康は、いわば社会資源という考えが広がりつつある。このように、トータル・ヘルス・プロモーション・プランは、事業場、働く人、サービス機関等がそれぞれの立場で地道に努力することにより、心とからだの両面にわたる健康的な生活習慣を1人1人が身につけていくことをめざし、この努力が、生活習慣病を予防する大きな要因になりうるものと考えられた。

主任研究者 徳島産業保健総合支援センター 所長 七條 茂文
共同研究者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 大木 裕子
徳島産業保健総合支援センター 相談員 橋本 澄子
徳島大学医学部第二内科教授 伊東 進
徳島大学医学部特殊栄養教授 中屋 豊
徳島大学医学部第二内科助手 野村 昌弘